「借入金の種類について」前編と後編2回にわたってまとめています。
当記事(前編)では特に分かりづらい運転資金に力点を置いて説明しています。
銀行へ事業性融資の相談に行く前に、自分の事業が必要な資金がどの種類に該当するのか、確認整理しましょう。
尚、下記の「借入金の種類について(後編)」では貸付方法や手法の違い(証書貸付・手形貸付など)から借入金の種類をまとめています。そちらも一緒に確認するようにしましょう。
目次
設備資金と運転資金
借りたお金の使い道のことを「資金使途」と言います。
借入金の種類を資金使途で分けた呼び方が「設備資金」と「運転資金」です。
本記事では特に運転資金の種類について詳細をまとめています。
長期資金と短期資金
「資金使途」ではなく「借入期間」で借入金の種類を分けた呼び方が「長期資金」と「短期資金」です。
- 借入期間1年以上の借入=「長期借入金(長期資金)」
- 借入期間1年未満の借入=「短期借入金(短期資金)」
と呼びます。
設備資金
事業に必要な建物・設備など、「モノ」を購入するための資金が設備資金です。
例えば、「新しく事業を始めるために店舗を建てます。
その建設資金を借りたい。」となればそれは「設備資金」になります。
設備資金は実際にお金の使い道が「モノ」として目に見えるものであり、分かりやすいのが特徴です。
また、基本的には借入期間1年以上の「長期資金」として借入るのが一般的で、その期間はおおよそ5年〜8年程度です。
6種類の運転資金
設備資金と異なり、分かりづらいのが運転資金です。
基本的に「モノ」を買う設備資金以外は運転資金となり、下記6種類程度に分けられます。
設備資金が一般的に長期資金であるのに対し、この運転資金には短期運転資金と長期運転資金があります。
経常運転資金
経常運転資金とは正常に事業を運営する中で経常的に発生する資金のことを指します。
一般的に事業は下記の流れになります。
- 商品を「仕入」れる
- 「在庫」として保管する
- 顧客に「販売」する
- 顧客から売上金を「回収」する
この一連の流れの中で説明できる資金が経常運転資金で、算出のための計算式は下記の通りです。
【計算式】
- 経常運転資金1=(売掛金+在庫)−買掛金
- 経常運転資金2=(売掛金+受取手形+在庫)−(買掛金+支払手形)
*手形取引がある場合は下段(経常運転資金2)の式になります。
受取手形は売掛金、支払手形は買掛金と同じ性質のものであるため、それぞれを同様に扱います。
増加運転資金(減少運転資金)
増加運転資金とは上記の経常運転資金が何らかの理由で現状よりも「増加」したために発生する資金です。
下記のような「増加」理由が考えられます。
【増加理由】
- 「売掛金」のサイト(売掛期間)が長くなった
- 「売掛金」が不良債権化した
- 戦略的に「在庫」を増やした
- 「在庫」が陳腐化等により不良在庫になった
- 「買掛金」のサイト(買掛期間)が短くなった
上記のような事情が発生した場合、先ほど確認した経常運転資金の計算式に当てはめると、金額が増加することが分かります。これが増加運転資金です。
売掛金の不良債権化や不良在庫はネガティブな原因で運転資金が増加していますので注意が必要です。
基本的に融資のハードルは高くなってしまいますので、きちんと解消の見通しまで考えておきましょう。
減少運転資金とは増加運転資金とは真逆の性質を持っています。
例えば、売上高が何らかの理由で減少してしまったが、従業員はいきなり減らすことはできず、費用(この場合支払給与)は減らせない、といった状態です。
このような場合に必要になる資金が減少運転資金です。
この減少運転資金はほぼ確実にネガティブな原因で必要資金が発生しますので、この場合も融資のハードルは高くなってしまいます。きちんと解消の見通しまで考えておきましょう。
季節資金
季節性の高い商品・サービスを取り扱う事業の場合、毎年一定の時期に必要な運転資金が増加します。
この増加に対応する資金を季節資金と呼びます。
例えば、「うちわ」を製造している事業者は春から秋にかけて繁忙期になり、冬は暇になります。
春先にうちわを作るのに必要な材料をまとめて購入する、といったような資金を季節資金と呼びます。
「季節」による資金ギャップを埋める資金ですので基本的には短期資金となります。
赤字補填資金
赤字補填資金とは決算書(損益計算書)が赤字であることで必要になる資金のことです。
経常運転資金が資金の「ズレ」を補う資金(支払いと入金のギャップを補う資金)であるのに対し、赤字補填資金は赤字計上による単純な資金の不足を補うための資金です。当然、赤字ですので銀行審査のハードルは高くなります。
決算資金(納税資金)
決算資金とは読んで字のごとく決算時の各種支払いに必要な資金です。
ここで言う決算には本決算の他、中間決算も含まれます。
各種支払いとは納税や賞与、配当金等です。期間は1年未満の短期資金となることが一般的です。
その他運転資金
金融の現場でよく「折り返し資金」や「反復資金」といった言葉を耳にします。
これらは金融機関や事業会社それぞれで意味合いがことなることがあり、共通の明確な定義として説明することが難しい資金です。ここでは反復資金について、1つの説明を参考として記述します。
(番外)「反復資金」について
反復資金とは既往の借入金の返済(減債)がある程度進んでいる状況で、追加の借入をする際の説明として使われます。
資金の使い道(=資金使途)というよりかは資金必要事情の説明・理屈です。
例えば、過去に借りた1,000万円の借入(期間5年、返済額200万円/年)が現在400万円(期間3年経過)になっているとします。
この時に600万円を借入する(=借入金残高1,000万円にする)と反復資金を調達したことになります。
事業から生まれるキャッシュフロー(返済原資)が今年は100万円しかありません。
返済額/年:200万円−返済原子100万円=100万円の資金不足です。
このような場合の不足した100万円を運転資金として借入するのが反復資金です。
上記の例のように不足分100万円でなく借入残高1,000万円を維持するよう、この場合600万円を借入する(不足額100万円×6年分)ということが多いです。
この場合の反復資金は極端な表現をすると「借入金を借入金で返済する」ことになるため、長年複数回行えば当然に借入金が増えていき、減債が進まないという状況も発生してしまいます。
初めて事業性資金の調達を考えている方はある程度の事業規模になるとこの反復資金が発生してしまう会社がある、という程度に認識いただければ結構です。
まとめと注意点
運転資金は資金が必要な理由として「ネガティブな理由」と「ポジティブな理由」両方があり得ます。
事業者が「新規事業のための前向きな運転資金が欲しい」「売上増加による増加運転資金が欲しい」とポジティブに説明しても、融資担当者から見ると「実際は赤字補填資金だよな」というようなことがままあります。
ネガティブな理由で必要な資金であっても、下手にごまかさず、解消までの見通し(返済見通し)をきちんと説明することに注力しましょう。
また、設備資金として借入した資金を勝手に運転資金として使ってしまうと「資金使途違反」となり、最悪の場合、即刻全額返済もあり得ます。
資金使途は確実に守るようにしましょう。
以上、借入金の種類について(前編)【第6回】…でした。
当記事は、公的融資制度の基礎知識【全10記事】の第6回となります。是非ブックマークをして必要な時に読み返すようにしてみてください。
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