一度は耳にしたことのある銀行内の「格付け」ですが、借り手である企業側からするとなかなかわかりづらい部分も多いと思います。
当記事では初めて銀行に融資を申し込む予定の経営者や個人事業主の方が知っておくべき銀行内格付けの概要を簡潔に説明します。
目次
銀行内の「格付け」とは
銀行は金融庁の指針に基づいて融資先である会社を「格付け」しています。
金融機関にとって金融庁は絶対の存在であり、どの金融機関も貸付業務を行なっている限り必ずこの格付けを行なっています。
銀行格付けは会社の決算書に基づいて、下記表のように10段階程度に「信用格付け」を行い、さらに6つの「債務者区分」に分けています。
信用格付け | 債務者区分 |
1~5 | 正常 |
6~7 | 要注意先 |
8 | 破綻懸念先 |
9 | 実質破綻先 |
10 | 破綻先 |
銀行は企業から提出される決算書に基づいて「格付け」を行っているという点がポイントです。
実際のところ「事業計画書」をどんなに丁寧に作成して提出したとしても、ほとんどこの「格付け」には影響しません。
何と言っても「決算書」が全てなのです。
例えばあなたの会社が「今の財務状態は赤字で債務超過です。融資が難しいのは分かっています。
でもこのような事業計画があります。
ですので、「どうしても1,000万円を金利2%位で貸して欲しいのでお願いします!」と融資担当者にお願いしても、格付け上、対応が不可能な場合があるということです。
なぜ銀行は「格付け」を行うのか
銀行が金融庁の指針に基づいて会社の格付けを行う理由は大きく分けて2つあります。
与信判断を行うため
ある会社に銀行がお金を貸せるかどうかを判断することを「与信判断」と言います。
上記の「信用格付け」をベースに様々な銀行内ルールを設定することで銀行内の与信判断の基準を統一しています。
例えば「正常先」であれば、ある程度支店判断で「貸出金額」「貸出金利」を決定することができ、一方で「要注意先」であれば金額○○円からは支店だけでは判断してはならず、本部の審査部判断が必要というようなルールです。
格付けが高いと融資担当者も「融資しやすい」「良い条件を提示しやすい」ということになります。
銀行決算(引当金の計算)のため
一般的な事業会社は決算時に売掛金に係る引当金を計上します。
銀行も同様に決算時に貸付金に係る引当金を計上しなければなりません。
例えば、要注意先に5,000万円の貸付を行なった場合、銀行は決算時に約55%、5,000万円×55%=2,750万円を引当金として計上します。
このように銀行の決算のためにも格付けが必要なのです。
銀行が「格付け」をする仕組み
銀行は企業から提出される決算書に基づいて「格付け」を行います。
なんども言いますが、「計画書」などの将来の話はほとんどこの「格付け」には影響しません。何と言っても「決算書」が全てなのです。
銀行が決算書を受領してから格付けを行う流れは下記の通りです。
銀行の格付けを行う流れ
- 企業から決算書を受領する。
新規の場合は3期分程度を受領します。創業してまだ3年経過していない場合等は例外ですが、基本的には3期程度の決算書が必要です。 - 銀行内システムに決算書を登録する。
銀行内システムには様々な業種の企業の決算書が登録されており、同業他社と比較して当社の業況がどうか、等細かい分析数値がでてきます。また、粉飾の疑義があるポイントなども洗い出されます。 - 決算書の数字だけではシステムで拾えないものを修正する。
具体的には不良性の在庫は無いか、回収できていない売掛金はないか等を確認しています。在庫に不良性の疑いがあると判断されれば在庫内訳資料等の追加提出を求められます。また売掛金に不良性の疑いがあると判断されれば売掛先明細資料の提出を求められたり、受取条件についてヒアリングを受ける可能性があります。在庫・売掛金いずれについても担当者が確認した結果、不良性があると判断されれば資産から控除されてしまいます(=銀行内で修正されてしまいます)。 - 銀行内で修正された決算書をベースに定性判断も加味する。
社長の経歴や手腕、事業の将来性などを加味します。決算書=定量判断に比べたら格付けに与える影響はごく僅かです。
上記の流れの内「3.」からも分かる通り、銀行は税務申告された決算書であっても、税務署とは違う角度で保守的に決算書をチェックし、修正を行った上で格付けを行っています。
自社の決算書はそんなに悪くないのに、やたらと金利条件などが悪い、という場合は銀行内で保守的に修正されて格付けが低くなっている可能性もあります。
大抵の修正は「3.」に記載の通り、「回収不能な売掛金」や「換金性の低くなった不良性の在庫」等について、資産性が無いと判断され、資産の項目から控除修正するというものです。後述しますが、これにより債務超過となってしまう企業もままあります。
「格付け」を上げるための3つのポイント
銀行内の格付けは複雑なシステムの上で判断されるものです。
業種や事業規模によっても変わるため一概には言えませんが、基本的には「良い財務状態」を維持することが必要です。
それでは具体的に「良い財務状態」とはどんなものでしょうか。
銀行格付けにも大きな影響を与える財務の基本的なポイント3点を押さえましょう。いずれのポイントも押さえられていれば「正常先」として格付けされる可能性が高まります。
赤字ではない
損益計算書上の利益項目5つ「売上総利益」「営業利益」「経常利益」「税引前当期純利益」「当期純利益」の内、最も重要なのは「経常利益」です。
経常赤字を計上してしまうと「正常先」と判断されることは難しいと考えてください。
例外として、創業赤字の場合は一過性の赤字と判断されれば「正常先」となる場合もあります。
債務超過ではない
債務超過とは負債総額が資産総額を超えている状態のことを言います。
基本的にこの状態になると「格付け」以前の問題で、多くの金融機関は新規の貸付が難しくなります。
当然に債務超過の状態だと格付けについても「正常先」にはなりません。
前述しましたが、決算書上では債務超過でなくても、銀行の判断により在庫や売掛金に資産性が無いと判断されて債務超過となる場合があります。
自社の決算書において、資産性の低い在庫は無いか等を確認しておくと良いでしょう。
延滞していない
既往の借入債務について、元本返済か利息支払いが延滞している場合は「正常先」でなくなります。
また、元本の延滞状態では基本的に追加融資は難しいというのが金融機関共通の認識です。
もしも、延滞状態で加えて新規の融資が欲しいという場合は、新規取引行を探してもまず無理ですので、延滞している金融機関に相談しましょう。
まとめ
銀行内の格付けの概要は以上です。
初めての融資申込みで決算書を数期分提出すると思いますが、銀行はまずこの格付けを行っておおよその融資可否や方針を決めています。
新規申込みに行く前に、今回ご紹介したポイントを確認して、自社が正常先かどうかある程度掴んでおきましょう。
金融機関と融資取引を開始したとして、自分の事業や企業がどの格付けにあたるか、銀行に直接聞いても教えてはもらえませんが、どういったポイントを改善していけば良いか、ざっくばらんに融資担当者に聞いてみるのも良いでしょう。
融資担当者は担当企業にできるだけ貸したいと考えているので、基本的には真摯にアドバイスしてくれるはずです。
以上、銀行融資の申込前に知っておきたい銀行内の「格付け」とは?【第3回】…でした。
当記事は、公的融資制度の基礎知識【全10記事】の第3回となります。是非ブックマークをして必要な時に読み返すようにしてみてください。
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