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金融機関へ資金使途を説明するポイント
融資審査の全ての大元となる資金使途については、資金が必要となった理由について、数字を用いて正しく説明できなくてはいけません。資金使途は大きく「設備資金」と「運転資金」の2つに分けられます。
・設備資金 -土地・建物、機械・装置、車両など設備を購入するために必要な資金
・運転資金 -会社が事業活動をしていく上で必要となってくる資金
POINT設備資金の使用目的は購入する設備に見積書のような明確な根拠があるため、割と簡単に説明ができます。借入れが長期的ものに対する効果は予測が付きにくい場合が多く、設備資金における返済原資の説明は難しくなります。一方で、主に短期での借入れが中心となる運転資金については、返済原資は考えやすいですが、使用目的の説明は容易ではありません。
以下5つの項目のどれに当てはまるのかを正しく理解した上で、どういった運転資金であるのか説明できるように準備をしておくことが大切です。
【資金の使用目的1】経常運転資金
企業は仕入れた物を販売して代金を回収するという本来の事業活動の中で、売掛金の回収よりも買掛金の支払いが先になった場合に、この一時的なズレによって支払いが生じる立替え金のことを経常運転資金と言います。売上総額や棚卸資産の量、売上・仕入の決済条件の変化によって経常運転資金の必要額が上下します。条件に変化が無ければ、必要となる経常運転資金はほぼ一定額となります。
【資金の使用目的2】増加運転資金
取引状況が変わることで、新たに調達が必要となった経常運転資金の増額した部分を増加運転資金といいます。例えば、一般的に喜ばしいとされる売上が増えた場合には必要な運転資金が増加します。また、取引先から売掛金の回収を引き伸ばされたり、買掛金の支払い時期が早まったり、在庫管理不足によって新たな棚卸資産が増えてしまったり、様々な原因によって追加運転資金が必要となってきます。
【資金の使用目的3】納税資金・賞与資金
納税資金とは、主に決算時の法人税などの課税所得に対する税金の支払いに必要な資金の事を言います。消費税や源泉税など既に支払われている税金については含みません。
賞与資金とは、従業員に支給される賞与の支払いに必要な資金のことをいいます。役員賞与については賞与資金に含まれず、決算(納税・配当)資金扱いになります。
納税資金も賞与資金のどちらも短期資金で、一度にまとまった額の支払いに対応するためにあります。
【資金の使用目的4】季節資金
季節資金とは、季節要因によって売上の増減が大きい商売を行っている場合に、発生する必要資金の事を言います。一時的な収支のずれによって、固定費を補うための資金や、仕入れ代金を支払うための資金など、多額の立て替え払いが必要となります。具体例としては、スキー場経営や、ハロウィン・クリスマス・正月用の商品、新入学時期の商品など、短期問に販売が集中するようなものが該当します。
【資金の使用目的5】その他
多額の利益が出た場合に、別の試算に変えて納税額を圧縮するために必要な資金を節税資金といいます。また、赤字発生によって、現預金が減少したり、支払いが困難になったり、赤字補填をして経営改善までの時間を稼ぐために赤字資金などがあります。
資金使途とは融資資金をどのように使用するかという事で、明確にする必要があります。設備投資と運転資金の2つの項目に分けて、融資金の使い道が、将来の「返済原資」を生み出せるのかどうかを判断します。設備投資では、他の設備では代用することができないと等、事業資金の必要性が求められ、運転資金では、「つなぎ資金」として従業員の給与や経費など変動制のある資金を計上する必要があります。
金融機関は貸し倒れリスクを負わなければならないので、資金使途が不透明であったり、個人の趣味や無謀な投資のような今後の返済に結びつかない意味の無いものであったりすると、融資を受けることはできません。
銀行融資の返済条件と事業計画の重要性
銀行からの融資を受ける際に、貸し手である銀行は資金使途はもちろんチェックしますが、最も重視するのは、その返済条件、すなわち「貸したお金の返済方法」と「どうやってその返済原資を作るのか」となります。当記事ではその返済条件について触れます。
返済条件について
返済条件は「どのくらいの期間でどのような返済スケジュールで返済していく予定なのか」を決める条件のことです。この返済条件は当然、資金をどう使うか(資金使途)に大きく影響されます。運転資金の場合と、設備資金の場合では決定方法が異なります。月次の資金繰り表等をもとに返済予定を提示する必要があります。尚、資金繰り表をお持ちでない場合は、下記のフォーマットをご利用してみてください。
貸し手である銀行は、通常はこの「返済条件」をかなり厳格に設定します。要するに、「確実に回収すること」を優先してくるわけです。会社側としては、余裕資金として口座に資金を置いておきたい場合もあるかもしれませんが、通常はかなり早めのピッチでの返済条件を設定されることになるでしょう。
返済をしていくための事業計画
妥当な返済条件が決まったとしても、事業自体の調子が想定よりも良くない場合、再度資金調達をしなければいけない場合もあります。そのようなことが起こらないかどうかを事業計画書で判断します。事業計画書の作成ポイントは下記の記事をご参照ください。
銀行融資の審査を100%通すために知っておくべき情報【提出書類編】
銀行融資の審査を100%通すために知っておくべき情報【銀行内部編】
銀行側は「返済条件」と「返済していく事業計画」を検証することとなります。その際に必ず「資金繰り表」も用意するようにしましょう。尚、事業計画はもちろん実現性が高い「固めの計画」である必要はありますが、それと同時に、仮に何かが起きた場合でも、それをリカバリーできる態勢であり事業計画が大きく下振れするリスクは少ないということを合理的な根拠を提示して説明できることが、銀行融資による資金調達の成否を決める大きなポイントです。
もしも事業計画通りにいかなかった時は?
考えたくないことですが、事業計画通りにいかなくなった場合、起こりえるのが「借りたお金を返済できない」ということです。銀行は基本的に必ず保証人を取ります。中小企業の場合、普通は経営者を保証人とする場合がほとんどです。ですが、銀行側の本音は、実際には保証人の保証能力はあてにしていないのです。というのも、中小企業というのは経営者と会社が実質的に一緒の場合が多いため、会社の経営が傾くと、経営者個人も傾くと考えられているからです。だからこそ、銀行は銀行が直接融資するプロパー融資を避けて、保証協会経由での融資の方を好み、自分たちのリスクを軽減させたいわけです。
担保は事業計画の実現性次第
銀行は、経営者に保証人になってもらう以外に「担保」を取る場合もあります。この担保を取る判断は、ずばり「返済できる実現性の高い事業計画」であるか否かにかかっています。もし返済の実現性に疑問符が付くような計画の場合は、担保がなければ融資できないといわれる可能性が高くなります。あらためて銀行に事業計画を提出する前には、じっくりと計画を練って準備するようにしましょう。
返済原資を金融機関に説明する3つのポイント
「返済原資」とは、借入金を返していくための資金のことで、返済原資を確保する方法と、どのように返済していくのか「返済計画」を説明する必要があります。
計画通りに返済できる事を金融機関に納得してもらうためには、「経営計画」に説得力がなくてはいけません。
「経営計画」と「返済計画」の内容に矛盾が生じてしまうと具合が悪く、借り入れ条件についても「返済計画」の基となるので、整合性を持つようにしっかりと吟味しなくてはいけません。
一般的に返済原資は、「税引後当期純利益+減価償却費」の計算式によって、概算ですが求めることができ、金融機関が企業の返済能力を判定する指標のひとつとしています。
POINT【返済原資の概算を求める式】
返済原資 = 税引後当期純利益 + 減価償却費
金融機関は借入期間中において、元本と利息の支払いに必要な返済原資を、計画通りに継続して確保できるかどうかに注目しており、一気に業績を上げて返済金額の何倍ものキャッシュフローを獲得する事を求めているわけではありません。要するに、返済に必要な分だけのキャッシュフローを安定的に得ることの方が重要視されています。
また、返済原資を説明する上でカギとなる「経営計画」についても同様の考え方を前提で作成して、説得力のある説明ができるようになることがとても大切です。そのために、以下3つのポイントも理解しておきましょう
【返済原資の説明ポイント1】経営計画と返済計画の整合性がある
資金不足することなく「返済計画」の通りに返済できる内容の「経営計画」を作成することが重要です。金融機関に示す「経営計画」は非現実的な経営者の夢物語ではいけません。「経営計画」と「返済計画」は整合していることが必須で、「経営計画」を立て、継続して返済できる内容になるように十分に検討する必要があります。
【返済原資の説明ポイント2】現実的な経営計画を提示する
「経営計画」は実現可能と納得させられるものである必要があります。金融機関は「経営計画」を基にして、返済計画どおりに返済が行われるかを判定しています。長ければ10年以上にもなる借入金の返済期間の間、継続して返済可能と計画している理由がしっかりと的を射ていなくてはいけません。その根拠について、金融機関の担当者、支店長に口頭で説明することもできますが、可能な限り書面に書き記す方が考えをまとめやすく合理的で、より説得力のある説明ができるようになります。
【返済原資の説明ポイント3】※設備資金の場合、「金利+減価償却費」を賄えるだけの収益の見込みを提示する
設備投資の場合は金利プラス減価償却が負担となるので、それを賄えるだけの収益が必要となります。長期的な事業活動によって、設備に投資した金額分の利益を確実に回収できるかどうか、しっかりと検討する必要があります。「経営計画」は設備の使用可能期間で作成します。返済年数、年間返済金額、年間キャシュフローの整合性をとって計画を策定しましょう。
銀行融資の返済期間の設定で絶対に覚えておきたいこと
返済期間は毎月の返済可能額(返済原資)から逆算して割り出すので、返済期間と返済原資は切り離して考える事は出来ない関係です。また、資金使途が運転資金か設備資金のどちらであるかによっても、期間設定の仕方は変わってきます。当記事ではその点について触れてみたいと思います。
短期融資と長期融資の違いについて
支払期日が決算日の翌日から起算して1年以下のものを短期融資、1年を超えるものを長期融資といいますが、設備投資では短期融資を利用する場合はほとんどありません。また、運転資金を長期融資で借り入れる場合もありますが、一般的には運転資金は比較的短めで、設備資金は比較的長めの期間設定とされています。
返済可能額の上限はキャッシュフローの見積もり額とされており、原則は税引後当期純利益と減価償却費の合計金額で算出されます。もし、上限額を増やしたいのであれば、例えば、増資を実施したり、会社所有の資産を売却したり、借入金の借換えをするなど、会社の事業で利益を稼ぐ以外の方法で返済原資を調達する必要があります。
設備資金の返済期間について
設備資金の返済期間については、設備投資によって生み出される収益から返済する事が基本と考えられているので、予測される使用可能期間である耐用年数を超えて期間設定をすることはできません。返済期間の上限は減価償却期間と決められています。
短期で返済する場合は借入れの金利設定が低くはなりますが、目先の利率だけを見て判断しない様に注意してください。綿密に事業計画を行っていても、予期せぬ事態で業績が悪化して支払いが困難になってしまうと、新たに追加融資を受けなければ資金繰りが追いつかないことになりかねません。
長期の運転資金については、短期融資と比較するとトータルで見ると利息の負担額は大きくなってしまいますが、毎月の返済額が少なくなるので、資金繰りに余裕を持って経営ができるというメリットがあります。中小企業にとって有益でつい利用しがちですが、手元に余裕資金を確保する事が目的だと常に認識しておく必要があります。依存してしまうと資金ショートや倒産するリスクを高める危険性があります。
そうならない為の一つの案として、あらかじめ余裕資金額の基準を決めておきましょう。月商の1ヶ月分、毎月の経費の1ヶ月分など、会社の経営状況に合わせて具体的に設定をして、設定した金額は最低でも確保するように努めましょう。しっかりとシミュレーションをして無理のない返済期間を適切に設定することが大切です。
据置期間について
返済期間を決める際に、据置期間が備えられていれば、元金の返済が猶予されます。通常であれば、融資を受けた翌日から利息と元本の返済が開始されますが、据置期間を設定しておけば、その間は元金の支払は無しで借入利息のみの支払いで構いません。創業時、売り上げの入金にタイムラグがあった場合でも、資金繰りに追われないで済む為、創業間もない企業の多くが利用しています。予想される売上金の入金時期と、経営が軌道にのる時期を考慮して期間設定してください。
担保の役割と担保を設定する3つのポイント
担保とは、将来起こりうる不利益に備えて補いとするもの、また、既に生じた不利益について損害を補償することを言います。担保はおおまかに物的担保と人的担保の2種類に分類されます。 物的担保は不動産担保が一般的で、その他では、抵当権、質権、先取特権、留置権などがあります。人的担保は連帯保証人等をつけることを言い、中小企業が融資を受ける場合、社長が保証人となるケースが多く見受けられます。担保は債務不履行になった場合に、責任者の責任逃れを防止する為に、心理的な面と実質的な面において以下のような効果があります。
担保の3つの心理的効果について
担保には以下の3つの心理的効果があります。
- 社長を連借保証人にする事で、会社と社長が運命共同体になります。社長の経営責任が明確となり、社長の責任逃れを防止する効果を期待されています。
- 社長の個人資産や住宅などを抵当権に設定する事で、社長の家族も会社と運命共同体の関係になります。社長の責任逃れを防止する効果をより強く発揮することを期待されています。
- 社長の配偶者を連帯保証人にする事で、差し押さえ防止を目的とした離婚を阻止しています。社長の財産の一部を担保から外して、配偶者の財産とするような行為によって責任逃れをできないようにする効果を働かせています。
担保の3つの実質面の効果について
担保には以下のような3つの実質的な効果があります。
- 抵当権を設定した不動産を売却することで、貸付金等の債券回収にあてることができますが、物を換金処分するには高いコストがかかるだけでなく、期待する値段で売却できないリスクも伴います。
- 第三者を保証人にする事は、実質面において担保効果を持ちますが、近年では減少してきています。経営に実質的に関与していない人を巻き込むという事自体に対して、社会的な批判が強まっている為です。
- 社長やその配偶者を連帯保証人にする事は、実質面において効果はあまり無いといえます。会社の経営状況が悪化するということは、会社から収入を得ている社長やその家族も必然的に返済能力が低下することに繋がってしまうからです。
融資審査において、担保はあくまで補助的な役割なので、重要なのは資金使途と返済原資です。「担保さえあれば審査に通る」と思い違いをしないように、気を付けてください。また、担保は法律が多く関わってくるので、予期していない所でリスクを負ってしまったり、将来の資金調達する際に支障をきたしてしまったりする場合もあるので注意が必要です。
以下のポイントをチェックして、場合によっては現在の担保設定状況を再検討して、また、新たに担保設定する際には是非とも参考にしてください。
担保設定時のポイント1
「根抵当権」の債券の範囲は一定の種類の取引によって生ずるものに限定して定める必要があります。複数の金融機関と取引する場合は、「根抵当権」で手続きをすると、担保にした「抵当権」にすることで、不動産を担保として利用することができます。
担保設定時のポイント2
少々の金利引き下げの為に不動産を担保にすることはあまりおススメできません。不動産の担保を「根抵当権」で設定してしまえば、担保設定をした金融機関以外からの資金調達ができなくなる可能性があります。将来困った時に資金調達手段が限られるリスクも伴っているという事を理解した上で、十分に検討してください。
担保設定時のポイント3
第三者を連帯保証人にする場合でも、第三者の連帯保証人になる場合のどちらにおいても、被担保債務を特定してください。保証契約時にお互いが把握できていない債務についてまで、連帯保証の対象にならないように気をつけなくてはいけません。以前は、返済無制限の「包括根保証制度」があり特に注意が必要でした。平成17年にこの制度は個人の保証に限って廃止されています。
以上、銀行へ融資を申込む前に読んでおきたい細かいポイントまとめ…でした。